囁く壁 - 築50年のアパートの秘密(短編)

 

若いサラリーマンのタカシは、都会の生活に疲れ、安い家賃を求めて築50年の古いアパートに引っ越してきました。

そのアパートは外観も古く、少し寂れた感じがしましたが、タカシにはちょうど良い住まいでした。

 

引っ越しの日、タカシは荷物を運び入れ、新しい生活に胸を躍らせていました。

しかし、夜になると、彼の部屋の壁から小さな囁き声が聞こえてきました。

最初は隣の部屋の音かと思いましたが、よく耳を澄ますと、壁の中から声がしているようでした。

   「助けて…ここから出して…」

タカシは恐怖に震えましたが、好奇心から壁に耳を近づけてみました。

すると、声はさらにはっきりと聞こえてきました。

しかし、どうやら声の主はタカシの声には反応しないようでした。

 

翌日、タカシは大家にこのことを相談しましたが、大家は

   「古い建物だから、たまに変な音がすることがある。気にしないでくれ」

と言うだけでした。

タカシは納得がいきませんでしたが、仕方なくそのまま住むことにしました。

 

その夜もまた、壁から声が聞こえてきました。

タカシは壁に近づき、

   「誰ですか?助けが必要ですか?」

と声をかけました。すると、驚くべきことに声が答えたのです。

   「私は、ここに閉じ込められた…」

 

タカシはこの声の持ち主に興味を持ち、さらに質問をしました。

声は、かつてこのアパートに住んでいた女性で、突然姿を消したことを語りました。

タカシはこの女性が何らかの事件に巻き込まれたのではないかと推測しました。

 

翌週、タカシはこのアパートの過去について調べ始めました。

彼は地元の図書館で新聞記事を探し、そのアパートに関する過去の事件を調べ上げました。

すると、50年前にこのアパートで若い女性が失踪した事件があったことが分かりました。

 

タカシはこの女性が壁からの声の主であると確信し、彼女の身元を突き止めるために奮闘しました。

彼は地元の警察にも協力を求めましたが、古い事件のため、彼らは消極的でした。

 

ある晩、タカシは壁から女性の泣き声を聞きました。

彼は壁に向かって、

   「私はあなたを助けるために何ができるか教えてください」

と叫びました。

すると、女性の声は

   「私の名前を知ってほしい…私は忘れられてはいけない」

と答えました。

タカシは女性の名前を聞き出し、再び調査を開始しました。

彼は女性の家族を見つけ出し、彼らに会いに行きました。

家族は彼女のことを覚えており、彼女が失踪した日のことを悲しみながら語りました。

 

タカシは女性の家族と共に、警察に再調査を求めました。

警察は渋々ながらも、再調査を開始し、アパートの壁を調べ始めました。

そして、その壁の中から、50年前に失踪した女性の遺骨が発見されました。

 

事件は、地元のニュースで大きく取り上げられました。

女性の家族は、長年の謎が解けたことに安堵しました。

タカシは女性が亡くなる前に受けた苦しみを思い、深い哀悼の意を表しました。

 

その後、アパートは取り壊され、新しい建物が建てられました。

しかし、タカシは時々、女性の声が自分の心に囁いているように感じました。

彼は女性のために、彼女の名前を忘れないようにと誓いました。

 

最後までお読みいただきありがとうございます

このお話しはフィクションです。